年齢を重ねると、今の家では暮らしにくくなり、やむを得ず引っ越さなければならなくなることがあります。
こうした高齢者の引っ越しで注意したいのが、心身の健康におよぼす影響です。
そこで今回は、高齢者がなぜ引っ越しで体調を崩しやすいのか、具体的な事例を解説します。
リロケーションダメージとは

リロケーションダメージ?初めて聞く言葉ね

まずは、用語の意味をチェックだワン!
用語チェック
リロケーションダメージとは「移転+被害」を合わせた言葉です。
リロケーションダメージ以外に、リロケーションエフェクトと呼ばれることがあります。
リロケーションという言葉は、人間だけでなく物などに対しても使われますが、リロケーションダメージは20~30年ほど前に介護分野で生まれた考え方です。
リロケーションダメージが意味するのは、引っ越しによる急激な環境変化で心身の体調を著しく崩すことです。
この考え方が注目され始めた当初は、子どもと同居するために田舎から都会へ移り住んだ高齢者に多く見られました。
リロケーションダメージの特徴は、新しく病気にかかった訳でもないのに、心身の機能が低下するところにあります。
リロケーションダメージが出やすいのは、環境変化に敏感な高齢者・子どもなどです。
リロケーションダメージの症状
- 重大な症状は、せん妄・認知症・うつ病
- 食欲の低下
- 会話の減少
- 気分が落ち込む
- 着替えができなくなる
- トイレにいけなくなる
- 日付がわからなくなる
- 転倒・骨折しやすくなる
- 肺炎リスク・感染症リスクがあがる
せん妄とは、軽度の意識障害であり、一時的な症状として知られています。
強いストレスによって症状が出始めたとしても、ストレスを緩和すれば改善が見込めます。
具体的な症状は、集中力の低下・幻覚・妄想・昼夜の逆転・興奮・情緒不安定です。
また、認知症は、せん妄と似た症状ですが、進行性であること・完治しないことに特徴があります。
認知症の具体的な症状は、記憶力の低下・日付と場所がわからなくなる・幻覚・妄想・暴言・暴力です。
さらに、うつ病については、高齢者の場合だと身体的な不調があらわれやすいことが特徴です。
身体の不調を次々と訴える場合、心身の疾患ではなくうつ病である可能性があります。
高齢者のうつ病の症状は、頭痛・胃痛・息苦しい・しびれ・めまいです。
リロケーションダメージの原因
- 引っ越しをしたくなかったがやむを得ず引っ越しをしたことによるストレス
- 生活のリズムが変わってしまった
- 人間関係が変化してしまった
- 運動量が減った
- やる気がなくなってしまった
- 部屋の模様がえで不調になることも
災害時にも似た症状が出る
地震・水害・火災など、災害で避難された方のなかに、リロケーションダメージと似た症状が出ることがあります。
過去に発生した大規模災害時には、緊急の対応をおこなうDMATなど医療分野の災害派遣チームが活躍しました。
しかし、こうした医療チームの活躍の陰で、急に調子が悪くなる方や持病が悪化し亡くなる高齢者の存在が明らかになっています。
避難所の環境に適応できず、大きなストレスを抱え認知症となってしまったケース、持病の薬がなくなりかかりつけ医での診察ができないケース、避難所の食事が持病に悪影響を与えてしまうケースなどが考えられます。
避難所生活では、トイレ遠くにあるうえが混雑していて、水分を控えたりトイレにいかなくなったりすることもあるでしょう。
災害時のリロケーションダメージのリスクを減らすためには、避難所を巡回している保健師への相談が有効です。
このほかに、なじみ・愛着の視点を大切にして、生活習慣とコミュニケーションを取り戻すことが大切だとされています。
(参考サイト https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240112/k10014317671000.html)
高齢者が引っ越す理由とは?

子どもから同居しようって言われてるんだけど…

体調・経済状況などにより、さまざまな引っ越し理由があるワン!
- 子どもと同居するため
- 今の賃貸物件を立ち退かなければならなくなったため
- バリアフリーの家が必要になったため
- 介護サービス付きの家が必要になったため
- 免許返納して買い物・通院がしにくくなったため
- 田舎暮らしが困難になったため
引っ越しに潜む具体的なリスク

引っ越しの作業をすると考えただけで、疲れちゃう

肉体的・精神的・経済的なリスクを見てみるワン!
肉体的なリスク
- 物件探しの眼精疲労
- 内見・内覧で疲れる
- 引っ越しの荷造り・荷ほどきで重い荷物を持つ
- 買い物場所が今までより遠くなった
- 間取りが使いにくく運動量が増えた
- 持病を診てもらえる病院がなく症状が悪化した
- 寝たきりになった
精神的なリスク
- 家族・友人と離れて不安になった
- 気軽におしゃべりできる人がいなくなり孤独になった
- 暮らしにくくなりこれからの人生に不安を抱いている
- ストレス・不安で寝つきが悪くなった
- 初対面の人と接する機会が増えストレスになる
経済的なリスク
- 高齢になっても返済が続く無理なローンを組んだ
- 引っ越し費用が予算をオーバーした
- 新居のための家具家電をたくさん買った
- 前の持ち家が売れない
- 前の賃貸物件の退去費用が高かった
リロケーションダメージが高齢者にもたらすダメージについて、細かく例を知りたい場合、以下の論文を参考にしてみてください。
参考 沖縄県立看護大学 紀要19号「国内文献にみる高齢者のリロケーションに関する研究の現状と課題」
表4.リロケーションが高齢者にもたらすダメージ
https://www.okinawa-nurs.ac.jp/daigaku/research-activities/kiyou/kiyou19/
リロケーションダメージのリスクを減らすには?

引っ越しで疲れたうえに、努力しなきゃいけないのはちょっと…

やむを得ない引っ越しの場合、いくつかの対策があるワン!
引っ越しのシニアプラン・シニアパックを利用する
引っ越しにかかる肉体的な負担を減らすには、引っ越し会社が提供しているシニアプラン・シニアパックの利用がおすすめです。
引っ越しのシニアプランとは、主に60歳以上の方を対象とした引っ越しプランで、さまざまなサポートが受けられます。
アート引越センターを例に挙げると、以下の3コースが用意されていますので、体力とやる気に合わせて選んでみてください。
費用を抑えて荷造りを自分でおこなう基本コース
荷造りはお願いして荷ほどきは自分でおこなうハーフコース
荷造り・荷ほどき両方をお願いするフルコース
(参考 https://www.the0123.com/plan/senior/ )
インテリアに配慮する
引っ越し後にストレスになりやすいのが、最新式の家電や情報量の多いインテリアです。
引っ越しを機に家電や家具を買い替える方が多いですが、生活環境を劇的に変化させないためには、古い家電と家具をそのまま使い続けることを検討してみてください。
また、おしゃれなカレンダー・おしゃれな時計は、インテリアとして優秀ではあるものの、高齢者にとって使いにくくストレスを感じるリスクがあります。
高齢者が住む家のインテリアでは、できるだけ今までどおりを意識することが大切です。
もちろん、脳の情報処理能力に負担がかからないよう、文字・色など特徴的な小物類は目につかないところに置くと良いでしょう。
通院の不安をクリアしておく
引っ越し後に持病の治療を続けられるか不安な方は、引っ越し前に頼れるクリニックを探しておくのがおすすめです。
新居の近くに歩いてかよえるクリニックがなかったとしても、送迎バスのルートの近くに住めれば通院が楽になります。
転院する際には、今までのかかりつけ医に紹介状を書いてもらい、転居先のクリニックに治療を引き継いでもらうと良いでしょう。
施設への入居前にはショートステイを利用してみる
引っ越し先として介護施設をお考えならば、環境にうまく馴染めるか、ショートステイで確認するのがおすすめです。
ショートステイとは、短期間だけ施設に宿泊するサービスのことで、利用によって施設の雰囲気や具体的なサービスを体験できます。
スタッフと気が合うか、入居者同士が仲良く暮らしているか、使いやすい設備が整っているかなど、ショートステイで確認してみましょう。
ショートステイで不安やストレスを減らせれば、引っ越しによる急な環境変化にならず、徐々に心身を馴らしていけます。
前の家の思い出を形にして残しておく
リロケーションダメージの多くは、住み慣れた我が家との別れによって引き起こされます。
喪失の悲しみによって症状が悪化しないよう、前の家の思い出を残しておくことがおすすめの対策です。
具体的には、荷造りする前の室内の風景を写真に残しておくと良いでしょう。
また、窓から見える風景、近所の風景なども、引っ越し後に見返したい思い出です。
スマートフォンアプリのなかには、3Dスキャンアプリがあり、思い出を立体で残せます。
引っ越し後に楽しみを見つける
リロケーションダメージは、前の家に戻りたい、前の生活に戻りたいといったストレスや不安から引き起こされることがあります。
こうした後ろ向きな感情を減らすには、新居での生活に楽しみを見つけることがポイントです。
ちょっと視点を変えると日常が楽しくなることは珍しくありません。
- 近所に気が合う友人ができた
- 散歩コースで夕陽がきれいな場所を見つけた
- タイムセールがお得なスーパーマーケットを見つけた
- 裏通りに好みのカフェがあった
- 庭で家庭菜園を始めた
- 離れた子ども・孫がひんぱんにメールや電話をくれるようになった
- インターネットを始めて交流の幅が広がった
- 地域で趣味のサークルに入った
- 地域の大学で聴講生になった
まとめ
リロケーションダメージとは、引っ越しによる急激な環境変化で心身の体調を著しく崩すことです。
とくに高齢者にリスクがあり、せん妄・認知症・うつ病に至るリスクがあります。
引っ越しのシニアプランの利用・インテリアの配慮・前の家の思い出を残すなど、少しでもリスクを減らす工夫を考えてみましょう。